集団的自衛権行使の根拠になる安全保障関連法が29日午前0時に施行され、戦後日本の平和主義が転換点を迎えた。「専守防衛」が旗印だった自衛隊に入隊した自衛官たちは、任務が拡大し、危険性も増すとみられる安保法施行に「覚悟」を語りつつ、いらだちや揺れる胸中も明かした。【町田徳丈、田辺佑介、梅田啓祐】
法施行を踏まえ、ある自衛隊幹部は取材に表情を曇らせた。「自衛隊の仕事は、いつまでに何をするかをまず決めて仕事にとりかかるが、安保法に関してはあいまいだ」。実際、安保法が成立した昨年、部隊幹部から「何を準備すればいいのか」と電話で戸惑いを打ち明けられたという。
別の幹部は「安保法で世間の注目を集めるような動きはするなと言われるが、早く訓練したい。それが周到な準備につながるのに」と不満を口にした。
自衛隊の任務が拡大する懸念について、将官クラスの幹部はこう表現する。「選択肢が増える分、自衛隊はこれからまさに政治的に利用される。軍事的に不合理な場合、いかに政治に利用されないか。『やらない』ではなく『今はできない』こととその理由を説明できるか」
新たな任務を現実のものとしてとらえ始めている隊員もいる。
関西地方の30代の陸上自衛隊員は離島防衛を想定した装備品の取得が進むことをあげて「隊内の雰囲気は、確実にここ数年で変わった。入隊時には意識していなかった『人を撃つ』という判断を下す状況が近づいていると実感する」と話す。
だが、願いがある。「東日本大震災など災害派遣が評価され、最近は子どもたちの声援を受けるようになって誇らしい。安保法でも我々は任務を果たすだけだが、国民の支持がほしい」
自衛隊はまだ1発も相手に向けて撃っていない。関西地方の別の30代隊員は「簡単に人を撃てない」と語りつつ「仲間を死なせられないから撃つ覚悟が自分にはある。だがその結果が国民の支持を得られるのか考えてしまう」と話した。
妻子がいる北海道の30代の陸自隊員の心は揺れる。「安保法は日本のために必要。今の国際情勢では米国などとの連携が不可欠だ」と理解を示しながらも「誰も口にしないが、不安のない隊員はいないと思う」と率直に語った。
中国船の活動が活発な沖縄県・尖閣諸島の近海では、海上自衛隊による警戒が続く。海上自衛隊佐世保基地(長崎県)配備の艦船に乗り組む男性隊員によると、中国軍とみられる艦船の接近に、上官から「作業着の階級章をテープで覆い隠せ」と指示が出た。撮影されて隊員構成などの情報を収集されるのを防ぐためという。男性隊員は「既に緊張感は高まっている」と安全保障を巡る現場の実態を指摘する。「我々は上官の命令に従う。自衛隊の役割が国際的に認められるのは大切なことだ」
海自舞鶴基地(京都府)に勤務する30代の海自隊員の男性は「人手は足らず勤務のローテーションはきつい。任務に見合うように人員と予算を増やして」と現場の窮状を訴えつつ「私もプロの自衛官だ。苦しく思っても任務を投げ出しはしない」と語った。