江戸っ子でぃ

長崎県五島市に住む老人が、政治に関する愚痴などを書いています。

2011-10-01から1ヶ月間の記事一覧

【読物】 『使い捨て家族』その14

「第十四話 新しい家族」 昇の生活は、電車とバスを乗り継ぎ、西淀川にある工場へ行き、ただ黙々と働き、仕事を終えると真っ直ぐに家に帰る毎日だった。 知った人もいない都会での暮らしは、家族の傷を隠して生活するのには都合よく、職場や行き帰りの電車や…

【読物】 『使い捨て家族』その13

「第十三話 引きこもり」 幸せにも、不幸にも尺度はない。 会社の倒産で、とんでもない不幸に見舞われたと思っていた昇であったが、そこはまだ、不幸の入り口でしかなかった。 大阪駅で昇と幸子を迎えてくれた高志であったが、就職して2年半ですっかり痩せ…

【読物】 『使い捨て家族』その12

「第十二話 屈辱」 高志は、早くも会社に嫌気がさしていた。会社だけでなく、仕事をすること自体が嫌になっていた。 入社後の始めての現場では、竣工を2ヶ月後に控え先輩が出社しなくなり、後を一人で任された高志は、とんでもないトラブルに巻き込まれるこ…

【読物】 『使い捨て家族』その11

「第十一話 転出」 平成6年、大学卒業と同時に大阪の建設会社に就職した高志は、先輩の下で現場での仕事をしていた。 高志の会社は、大手建設会社の下請けで成り立っている本体工事専門の会社だった。 現在、請け負っている仕事は大阪郊外の市立文化会館の…

【読物】 『使い捨て家族』その10

「第十話 思い出」 幸子の病状は落ちついたものの、仕事も家事も出来なくなっていた。 昇にとって、仕事と家事をこなすことはさして苦労でもなかった。しかし、いかにも不自由そうに歩く幸子を見ることは、なにより辛いことだった。 「あなた、ごめんなさい…

【読物】 『使い捨て家族』その9

「第九話 妻の病気」 会社が倒産した次の日、昇は思い切って幸子に倒産の事を話した。 幸子の肩が、ビクッと動くのが見えた。 昇は、この話が幸子にとってどれほど残酷な話しなのか十分に分かっていた。うつむいたまま幸子は、何も応えなかった。 「三ヶ月は…

【読物】 『使い捨て家族』その8

「第八話 絶望」 平成6年8月。 昇の会社では、社長の不機嫌な日が続いていた。 命の綱である公共工事を、今年は一つも落札出来ていなかったのである。この年に予定されている主な工事の最後の入札を控え、昇は社長に同行するよう命じられた。 行き先は、市…

【読物】 『使い捨て家族』その7

「第七話 妻の仕事」 高志が大学に入学して2年目のことだった。 幸子が長いあいだ勤めてきた事務用品会社が、突然、倒産した。経営状態が悪化しているという話しもなく、倒産のその日までみんな普通に勤務していた。 ただ、社長の姿は、朝から見かけなかっ…

【読物】 『使い捨て家族』その6

「第六話 高志の進学」 昭和天皇が崩御され元号が「平成」となった年に、高志は高校三年となった。 1学期の三者面談を終えた幸子と高志は、気まずい様子で昇の帰りを待っていた。最近、昇の会社は忙しく事務屋の昇も残業する日々が続いていた。 この日も、帰…