安倍政権の絵に描いた餅、<介護事業者施設>閉鎖相次ぐ
人手不足や経営難で施設を閉じる通所介護事業者が相次いでいる。4月からの介護報酬引き下げの影響もあり、今年度、施設の廃止や休止を届け出た通所介護事業所は九州・沖縄・山口で288件(11月まで)に上った。安倍政権は「1億総活躍社会」を旗印に介護サービス拡充を掲げるが、事業者は「絵に描いた餅」と懐疑的だ。
福岡市で有料老人ホームや通所介護(デイサービス)、訪問介護の事業所を経営する加藤暢也(みつや)さん(42)は5月、3カ所あった通所介護事業所のうち1カ所を閉鎖し、利用者約10人には別の事業所に移ってもらった。直接の引き金は4月の介護報酬改定だ。総額では2.27%の減額だが、通所介護は基本サービス利用分が約5~9.8%と大幅に引き下げられた。
閉鎖した事業所の建物は7年前に建てたばかりで返済も残っていた。しかし、折からの人手不足でスタッフの補充もままならず、利用者を増やすこともできない。さらに介護報酬が下がる中で運営を続ければ経営全体に影響が出ると判断した。
毎日新聞が九州・沖縄・山口9県に取材したところ、4~11月の通所介護事業所の廃休止届け出件数は、前年同時期(204件)の1.4倍に上り、大分、沖縄を除く7県で前年同時期を上回った。「職員の人手不足」や「利用者の確保が困難」という理由が目立ち、「介護報酬改定の影響」も13件あった。
今回の報酬改定では、認知症や要介護度が中重度の人を多く受け入れる通所介護事業者に介護報酬が加算されることになった。これらを生かせば、計算上は基本料の減額を補い、さらに増収も不可能ではない。
だが加藤さんは「職員を確保できなければ、認知症の人も含め利用者を増やすことはできず、加算のメリットは受けられない」と嘆く。ハローワークの他、月約10万円の掲載料で求人誌などで募集をかけるが、反応は乏しいという。
東京商工リサーチ福岡支社によると、全国の老人・介護事業者の倒産件数は1~11月に66件あり、昨年の年間件数(54件)よりも多い。昨年は2件だった九州・沖縄地区は、10件と急増し、中でも福岡県では全国で2番目に多い5件が倒産した。福岡支社の渡辺賢一郎・情報部長は「介護・福祉業界は、景気が上向くと、賃金や待遇が良い他業種に人材を取られ、結果的に倒産が増える傾向にある」と指摘する。
安倍政権は「1億総活躍社会」の実現を掲げ、11月に策定した緊急対策で、介護施設などのサービスの拡充目標を「2020年代初頭までに50万人分の受け皿増」とし、介護を理由に仕事を辞める「介護離職」の解消を目指す。
これに対し、鹿児島大法科大学院の伊藤周平教授(社会保障論)は「施設を造っても、給与水準が低いままでは職員は集まらず、利用者を受け入れられない。次の介護報酬改定で報酬を上げるなど待遇を改善しないと、介護による離職者をゼロにするのは困難だ」と指摘。自らも通所介護施設の運営に関わっている福岡県立大の本郷秀和教授(高齢者福祉)は「待遇の是正に加え、元気な高齢者を介護現場で活用することも考えるべきだ」と提言する。【青木絵美】