江戸っ子でぃ

長崎県五島市に住む老人が、政治に関する愚痴などを書いています。

ブログ・ハイジャッカー(最終話)

 【第17話より続く】
    
 「ところで、西山さん、なんで江戸から、こんな田舎に来たわけ?」

 「なんでって、前の会社の同僚がね、ここ、来たことがあるわけ。で、とっても良いとこ

  だって言うもんだから、遊びに来たわけ。しっかし、おじさん、よっぽどアタシのこと

  気になるんだね。」

 「ああ、珍しいじゃないか。店が終わったら、どう、食事でも。」

 「奢ってくれるの?だったら、和食どころ『よし』で、刺身食べたいよ。」

 「そうか。じゃあ、後で行こうか。しかし、その会社、何していたんだい?」

 「そうね。色んな藩の運営のコンサルティングとかやっていたわけ。でもね、2年位前か

  ら、ここの藩の調査とか、藩主のブログにちょっかい出したり、訳のわからないことば

  っかり。でもね。アタシ、気づいたんだけど、アドメニア合衆国の手先みたいな仕事し

  ていたんだと思うの。社長が言っていたんだけど、ここの藩主は人が良くて、簡単に乗っ

  取ることが出来たんだって。」

 「何を乗っ取ったんだって?」

 「あのね。ブログを通じて、殿様の心を乗っ取ったんだって。」

 「さっきから、ブログとか言っているけど、何?それ?」

 「あ、そうか。皆さんは、パソコンとか知らないんだ。」

 「は?パソコン?」

 「ま、いいか。とにかくね、ここの殿様は、うちの社長に心を乗っ取られたわけ。だから、

  土地を買い取られてしまったでしょう?」

 「そうなんか。ワシらには関係ないけどね。お陰で、儲けさせてもらっているし。しかし、

  あの殿、バッカだなー。補償で潰れるよ。」

 「バッカだなー、なんて呑気なこと言ってていいの?この藩がつぶれて困るのは、あんた

  らじゃないの?」

 「困るもんか。藩がつぶれても、おいらは生きていけるし、年貢を上げるなんぞ言い出し

  たら、江戸にでも出て行くさ。」



  木場半兵衛の心配が、具体化したのは間もなくのことだった。


 「殿、三井楽の漁民から、ジェット戦闘機の音で、魚が寄り付かなくなって、漁が出来な

  くなり生活に困っているとの申し立てが出ております。」

 「なに?また、補償か?」

 「はい。三井楽だけでなく、岐宿や玉之浦の漁民も漁が出来なくなったと申し立てが出さ

  れております。」


   
  盛利は、それ以上、聞くこともなく自室へ引き込んで行った。

  自室に篭った盛利は、習慣なのか自分のブログをぼんやり眺めていた。一時すると、

 つばき姫が入ってきた。


 「殿、大変なことになっておりますようで、御心労のことでござりましょう。」

 「うむ。なんとも、迂闊なことじゃった。生活できなくなった農民達は出て行くし、漁民

  も漁が出来ないと言うし、物の値段は高くなるし、困ったもんじゃ。」

 「殿とて、良かれと思ってなされたこと。過ぎてしまったことは、いたし方ござりませぬ。

  三井楽では、新しい商売が繁盛していると聞いております。」

 「確かに。しかし、新しい商売が繁盛しても、他の領民に迷惑を掛けることになってしま

  った。それに藩の財政が立ち行かなくなるのは、眼に見えておる。そこをワシの力では、

  どうしようもないのじゃ。」

 「殿は、殿なりに尽くされたのです。お疲れならば、後は、盛次に託しては如何でござりま

  すか。」

   
  つばき姫の言葉を聞きながら眺めているブログには、久しぶりに無題と言う者からのコメ

 ントが書き込まれていた。


   -人間万事塞翁が馬、推枕軒中雨を聴いて眠る。-


  相変わらず、理解できないコメントではあるが、盛利は、何か暖かいものを感じていた。


  
  五島藩第22代当主盛利が退き、第23代当主に盛次がついたのは、この寛永19年のこ

 とであった。
                                    (完)

 ワシの詰まらない読み物に長らくお付き合いいただいて、実にありがとうございました。今となると何を目的に書き出したものやら、とんとわかりませぬ。
 したがって、ストーリーも曖昧で、読んでいただいたお方になんとお詫びをしたら良いものか。
 この良い加減さ、優柔不断さは、そのまま盛利に反映されておりました。
 ただ、「活性化」という言葉の影には、こうしたことが往々にしてある事を伝えたかったのかもしれません。
 本当に、ありがとうございました。
                                           シカリ拝