民主化を促したとしてチュニジアの「国民対話カルテット」へのノーベル平和賞授与が決まったことに、市民から戸惑いの声が上がっている。相次ぐテロや高い失業率など、目の前の現実は「民主化の成功」とはほど遠く、街に祝賀ムードはない。
首都チュニスのハビブ・ブルギバ通り。2011年に23年続いたベンアリ独裁政権が倒れた「ジャスミン革命」のデモの中心地だ。しかし受賞決定から一夜明けた10日も、厳戒態勢が続いていた。
車道は閉鎖され、遊歩道には多数の警察車両が止まる。通り沿いにある内務省へのテロを警戒しているためだ。同省は有刺鉄線や柵で囲まれている。
5年間失業中というウィサーム・サギールさん(38)は「『国民対話カルテット』など知ったことではない。まるで絵空事を見せられているような気分だ」とぼやいた。
イドリス・ベンモーメンさん(17)は「賞を受けるのは名誉だが、実際の生活は悲惨だ。政府は言うだけで何もしないし、民主化の実感はない」と話した。博士号を持つ友人もろくな仕事がない。勉強は無意味だと思って学校をやめたという。「欧州に移住したいが難しい。賞よりも、安全と食料がほしい」
国際労働機関(ILO)によると、チュニジアの失業率は若年層で約40%に達する。多くの若者がイラクやシリアで過激派組織「イスラム国」(IS)に加わった。3月のバルドー博物館襲撃事件に続き、6月には北東部スースの高級ホテルが襲撃され、外国人観光客ら38人が殺された。8日にも、世俗派政党所属の国会議員への暗殺未遂事件が起きたばかりだ。(チュニス=山尾有紀恵)
■「西欧、長期的に関わって」
ノーベル平和賞に選ばれたチュニジアの「国民対話カルテット」のうちの1団体「人権擁護連盟」のアブデッサタル・ベンムーサ代表(62)が10日、朝日新聞の単独取材に応じた。受賞理由となった同国の民主化について、「まだ進行中で終わっていない」と強調した。