ずさんな計画のまま「見切り発車」-。2020年東京五輪・パラリンピックのメーン会場となる新国立競技場について、日本スポーツ振興センター(JSC)は7日、東京都内で開いた有識者会議で、総工費2520億円となった経緯など新整備計画案を説明、了承された。一部からは当初計画との違いを“公約違反”と指摘する声も。収支計画や財源確保の見通しも明確ではなく、課題は残されたままだ。
最後に口を開いた日本サッカー協会の小倉純二名誉会長の言葉に、場の空気が変わった。
「このままでは新しいスタジアムを使ってもワールドカップ(W杯)は招致できない」
仮設に変更された一部観客席について、当初計画通り可動式に戻すことの確約をJSCに求め、「そうでなければ、この案に反対せざるをえない」と語気を強めた。
国際サッカー連盟のルールで、男子のW杯招致には常設で8万人収容のスタジアムが必要となる。小倉氏は「W杯のメーンとして使えると話して(関係者に)招致活動をしてきた」とし、改めて“公約実現”を迫った形だ。
これに慌てたのがJSCだ。河野一郎理事長は「W杯招致に支障がないよう、少なくとも2020年が終わった後、常設化に向けて検討する」とした上で、20年大会前の検討もにおわせた。
基本設計時に1625億円だった整備費が2520億円に膨れあがったことで、JSCの見通しの甘さに批判が集まっている。2020年東京五輪・パラリンピック組織委の森喜朗会長は「(新国立は)五輪やラグビーW杯だけで創る価値観だと、高い低いの議論になる」とクギを刺し、日本スポーツ界全体の将来を見据えた国家プロジェクトであると強調する。
だが、一部観客席の仮設化はまさにラグビーW杯に間に合わせるための工期短縮策。そして将来のサッカーW杯招致の可能性を奪うものだ。常設となれば総工費はさらに膨らむ。JSCの対応はあまりに場当たり的に映る。
新国立をめぐっては、陸上のサブトラックが常設されない方針など、スポーツ界が置き去りとなっている状況に、当初から不満の声があった。
「世界に誇れ、世界があこがれる次世代型スタジアム」(JSC)は、スポーツ施設として中途半端なまま費用だけがふくらんでいく。
少なくない疑問の声を無視し、JSC側はこの日の会議後「(新計画案を)賛同いただいた」と話した。新国立はいったい誰のものなのか。(森本利優)