ハチクマの渡り
気持ちのいい秋空が続いています。五島市の大瀬崎断崖では、今、ハチクマの渡りの真っ最中です。あと、1週間くらいは観察できると思いますので、よろしかったらお出かけください。 |
ハチクマの渡り 「喜びも悲しみも幾歳月」「悪人」などの映画のロケ地で、観光地として有名な五島市の大瀬崎断崖。 もう一つ、秋の風物詩「ハチクマの渡り」の場所としても知られています。春に、朝鮮半島から日本に入ったハチクマは、秋になると五島市の玉之浦湾に集結し、大瀬崎から中国へ向けて飛び立つのです。9月中旬からの約一か月、晴れた日の早朝から昼にかけ、次々にらせん状に舞い上がり、一定の高さに達すると、「あおぎた」と言う季節風にのり大陸に渡るのです。 大瀬崎を飛び立ったハチクマは、約600キロメートル先の舟山群島を目指し、高度3000メートル程度を時速45キロメートル前後で飛行し、10数時間で到達します。その後、中国大陸の海岸地帯を南下し、ベトナム、タイ、インドネシアと飛行し、一部はフィリピンまで移動することが確認されています。 生物学者の故今西錦司は、生物の棲(す)み分けに着目し、独自の進化論を提唱したが、ハチクマは東アジアの周回で棲み分けし、自らの種(しゅ)を維持してきたのです。 ところで、最近、島の領有権を巡る議論が、にわかに賑やかになっています。一部、過熱した発言や行動も見られ、問題解決は一段と難しくなったように見えます。 人間が築いた社会は、グローバル経済のもと、自国通貨の価値すら自国で決められない複雑な共存社会となっています。その一方で、土地の領有権を巡る争いを行っている。しかも、紛争を解決する仕組みは、心もとない。 このように高度な社会を築きながらも、棲み分けができない人間の姿を、ハチクマはどう見ているだろうか。 何はともあれ、国家としての線引きも一定しない大昔から、途切れることなく交流を続けてきた隣国人同士、感情的応酬は避け、共栄につながる地道な交流を続けたいものです。 時に、強く吹く「政治」というあおり風、うまくかわして飛び続ける知恵をハチクマに学びたい。