【読物】 『使い捨て家族』その2
「第二話 火事現場には」 |
翌日、8時過ぎには現場検証が始まっていた。 「はーい。写真を撮りますので、写らないようにしてくださいね。」 道路の状況から、火災現場の隅々まで撮影していた。 同時に、間取りを測ったり、なにやら図面を描いたり、念入りな調査が進められた。 富岡と妻の智代も、始めは覗いていたものの、諦めテレビを見ることにした。 『昨日午後2時頃、五島市大荒町で火災が発生し、空き家1件、人家1件が全焼し、アパート1件が半焼しました。・・・』 丁度、ニュースで火事のことが報道されていた。自分の目の前で起きたことがテレビのニュースで流されると不思議な気持ちだった。 検証が始められ1時間もした頃だろうか。 通りが、にわかに騒々しくなるのが聞こえてきた。 「どうしたんだろう?」 二人は、外に出てみた。 「死体だ。」 誰かの声が聞こえた。 思わず顔を見合わせ、息をのんだ。なぜ?二人は、同じ疑問を眼で伝え合っていた。空き家なのに・・・。 検証は正午まで続けられ、一人の身元不明の遺体を収容して終わった。 午後になると、電線や電話線の復旧作業で、辺りは騒然としていた。 「ごめんください。五島署の者ですが、少し話しを聞かせてください。」 そう言って、二人の刑事がやってきた。 「えーと、火災に気づかれたのは、2時頃ですか?」 「はい、そうです。」 「平成23年4月29日、午後2時頃ですね。」 と一人の刑事は、独り言のようにメモをとっていた。 火災に気づいた前後の事、空き家に人が出入りしたことはないか、などと質問された。 空き家は、富岡たちがここに住むようになる前から住む人はなく、当然、出入りする人もなく、外壁は蔓で覆われていた。 「では、火災に気づかれて、外に出たときに人影は見ませんでしたか?」 この地区は、新興住宅街で多くが共働きの若い世帯であり、古いアパートに高齢者が肩身狭そうに暮らしているのであった。そんな町の昼下がりは、いつも静かなものである。 「私が、外に出たときには誰もいませんでしたよ。大声で叫んで、やっと、何人か集まってきましたけど。ところで、死体は男ですか?女ですか?」 「いやー、今のところわからないんですよ。ある程度、形が残っていたから、そのうちわかるとは思うんだけど。」 「私達が、ここに引っ越して来たのが平成10年ですけれど、その時にはもう空き家でしたからね。アパートの人たちも、年寄りばかりだけど、入れ替わりが激しいから、昔のこと知った人がいるかなー。」 刑事達は、これ以上新しい情報を聞き出せないと判断したのか、そそくさと出て行った。 <つづく>