町内会長を務める富岡が異変に気づいたのは、昼寝から目覚めたばかりの2時過ぎのことだった。
「なんだか、焦げ臭くない?」
と妻の智代から確認を求められた富岡だったが、玄関を出たとたん、向いの空き家から吹き出る煙に圧倒された。
「おーい、前の家が火事だぞー!」
誰に言うでもなく、出せるだけの大声で叫んだ。
「電話、電話!消防に電話してくれ!」
「何番?何番に電話すれば良いの?」
「119番だろうが。俺は、ホースで水をかけるから。」
そう言うと、家の前の洗車用のホースで水をかけだした。しかし、焼け石に水とはこのこと、煙は益々激しくなり、ついには、炎が屋根を突き破るように立ち上り始めた。
しばらくすると、町中に火災を知らせるサイレンが鳴り響き、消防車も到着し消防士達が消火活動を始めた。
「あー、あなた大変、隣りのアパートには、横山のおばあちゃんが!」
一帯は、新興の住宅街だが、燃えている家やその隣りのアパートはかなり古く、アパートの住人は高齢者が多いのである。横山のばあさんは、数年前までは旦那と二人暮らしであったが、旦那が亡くなったあとは一人暮らしで、今は介助がなくては生活できない状態であった。
「会長さん、横山のばあさんをなんとかしないと!」
いつの間にか、地元の消防団員も駆けつけており、富岡の妻の訴えを聞いていたのである。
「行くぞ!」
消防団員の数人が、消防車からの放水をかいくぐるようにアパートへと向かった。
「おい!鍵がかかっているぞ!」
「ばあさ~ん、鍵を開けてくれ!」
アパートの2階の横山のばあさんの部屋の前で、消防団員が大声で呼びかけている。ドン、ドン、ドン。
「ばあさ~ん、早く、鍵を開けるんだ!」
「だめだ、鍵を破ろう!」
一人の団員が木槌でドアを壊し始めた。ドアガラスの砕ける音、板の割れる音が続き、あっという間にドアをこじ開けた。
「ばあさん!」
横山のばあさんは、頭を抑え、部屋の隅にしゃがんで座り込んでいた。
消防団員たちは、ばあさんを抱え上げ、外へ連れ出した。
ばあさんと消防団員の姿を確認した周囲の住民からは、自然と拍手が起きていた。
「良かった。良かった。」
「でも、どうして空き家から火が出たんだろうか?」
「空き家から出たのか?」
「いやー、わからんよー」
火災が鎮火されたのは、夕方のことであった。
結局、空き家とその隣りの人家が全焼し、アパートの2階の軒先や窓が燃えてしまっていた。空き家の裏にも以前は家があったが、持ち主が転出し借りる人も無く、昨年解体したばかりであった。その家が、解体されずに残っていたらと思うと、背筋が寒くなる思いに駆られる富岡であった。
「もうすぐ暗くなるから、検証は明日だ。規制線を張って引き上げよう。」
そう言うと、消防も警察も器具を片付け、監視員を残し引き上げてしまった。
4月の五島は、日が暮れるのが早いのである。
辺りには、妙な静けさと焼け焦げた臭いが漂っていた。
<つづく>
皆さん、ご無沙汰しておりました。ちょっと、考え事をしていたら、そのまんま寝ていたんですよ。^^; |
冗談はさておき、久しぶりに読物を書いてみたくなりました。普通は、十分に推敲を重ねてから発表するのでしょうが、シカリさんはぶっつけ本番で行きます。 |
一応、十数回で終了の予定ですが、わかりません。キチンと終了できるのか、途中で投げ出すのかも不明です。偶然、「敬老の日」にスタートすることになったのも何かの因縁でしょうか。 |
もし、よろしかったらお付き合いください。この読物への思いは、無事、最終回にたどり着けた暁に書かせてもらいます。 |