江戸っ子でぃ

長崎県五島市に住む老人が、政治に関する愚痴などを書いています。

清徳丸も事故回避の努力をするべきだった?【イージス艦「あたご」問題】

イージス艦「あたご」による清徳丸衝突事故については、発生から1週間近くになるが、様々な事実が明らかになりつつある。
 24日には、「あたご」の見張り隊員らの証言として、『相手がよけると思った。』ということが明らかになった。

 こうした中で、24日の読売テレビたかじんのそこまで言って委員会」という番組において、「清徳丸も事故回避の努力をするべきだったんと、ちゃうんか?」などという主張が出ていた。
 単純なワシは、『あ、なるほどぶつかると思うと誰でも逃げるなー。』などと納得してしまった。
 ところで、皆さんは既にこの事故についてテレビ・新聞・インターネットなどで十分情報は得ていることと思います。
 しかし、防衛省が発表した情報を生で見聞きすることは、意外と少ないと思います。
 そこで、まず、防衛省の生の情報をお届けします。(防衛省のホームページより)
【平成20年2月22日付け:防衛省公文】
海上自衛隊護衛艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事案について(続報:21日2100現在)

1.概要
(1)発生時刻: 
      19日午前4時7分 
(2)場所: 
   千葉県房総半島野島崎沖合 
(3)状況: 
   漁船「清徳丸」(※)は船首部・船尾部の2つに割れ、乗員は引き続き行方不明。
   ※せいとくまる:新勝浦市漁協所属。乗員2名(吉清治夫(きちせいはるお)さん(58歳)、
    吉清哲大(きちせいてつひろ)さん(23歳)) 
(4)今後の調査等: 
   その他事故に関する詳細な状況については、現在調査中。この捜査を担当する横須賀の海上
  保安部の要請に基づいて、事案の捜査のため、19日午後5時6分に「あたご」を横須賀に回航し
  たところ。防衛省としては、引き続き、海保、横浜地方海難審判理事所等の捜査に協力してま
  いる所存。 
2.事故発生後の対応
(1)護衛艦「あたご」内火艇3隻にて「清徳丸」乗員の捜索を開始するとともに、海上保安庁等
   に対して連絡。 
(2)自衛隊より、自衛艦5隻、固定翼機1機、ヘリコプター4機の他、海上保安庁の巡視船等が
   協力して捜索を行っており、右捜索活動は現在も継続中。
(3)防衛大臣に対する報告は19日5時40分、総理大臣等に対する報告は同日6時頃までに完了した。
   結果として総理、防衛大臣等への報告に事故発生から相当の時間を要したことから、いかな
   る連絡体制が適切か、今後速やかに検討した上、改善措置を講じる。 
  ※ 19日6時18分に、防衛事務次官を長とする「連絡・対策室」を設置
  ※※ 19日7時00分に、海上幕僚監部において事故調査委員会を設置 
(4)19日18時19分に敷設艦「むろと」が船尾部を、19時11分に海洋観測艦「わかさ」が船首部の
   曳航を開始。民間タグボートへの引き継ぎを経て、20日19時30分、「清徳丸」は海上保安庁
   の指定する横須賀の岸壁へ到着。 
3.自衛隊の捜索態勢
   護衛艦「いかづち」、「はるさめ」、「しらゆき」、「あけぼの」、「はまぎり」
   固定翼機(海上哨戒機)1機
   ヘリコプター4機
4.当面の改善措置 
(1)本事故を受け、艦艇の安全航行(大臣通達)を速やかに発出 
(2)また、各自衛隊等における事件・事故の防衛大臣等への報告等に係る通達を改正し、重大な
   事件・事故については、各幕僚長等が直接、大臣、副大臣等に対して速報を行うことを明記
   した。 
5.その他
(1)19日11時10分より、江渡防衛副大臣が現地(千葉県勝浦市)に入って新勝浦市漁協、勝浦市
   役所等を訪問し、対応を実施。
(2)21日午後、石破防衛大臣が現地(千葉県勝浦市)に入って新勝浦市漁協川津支所、勝浦市役
   所等を訪問した。
 「1概要」「(3)状況」の書き出しおかしいと思いませんか?
 『漁船「清徳丸」(※)は船首部・船尾部の2つに割れ、・・・』といきなり割れたところから、書いています。
 まあ、タイトルに衝突事案と書いているから、これで良いと判断しているのかも知れないが、なんか、違和感を抱く。
 普通なら、『うちのあたごが、漁船にぶつかりました。』と書いて、そこから先ほどの文章に繋げるのではないでしょうか。

 しかも、この広報文章のどこにも『原因の如何に関わらず、このような事案が発生し、二名のお方の行方がわからなくなっていることは、誠に残念であり遺憾に存じます。』などという表現がない。
 捜査には協力するとか、今後は通達を出して安全航行に努めるとか、対策室を作ったとか、世間で言われる「言い訳」の数々を書いているだけ。
 ホンマ、イメージ悪いわ~~。

 さらに、皆さんも既にご存知とは思いますが、昔、自衛隊の潜水艦「なだしお」が釣り船と衝突し、30名もの人命を奪ったという事件もありました。
 マスコミも当然ここに注目し、報道を行っています。
 このような大事故を起こしていながら、ふたたび、人命にかかる事故を起こしてしまった。
 20年も前のことだからと言うわけではないのだろうが、そこはキチンと整理していただかないといけない。
 常に、漁船・民間の船が道を空けるべきという感覚で運航されては、たまったものではない。
 ところで、冒頭のテレビ番組での発言に納得してしまったワシとしては、少なくとも法的に、また、当時の海上の状況を知る必要を感じた次第。
 そこで、まず、法的にはどのようになっているか、関係箇所を調べてみました。
 一緒に勉強しましょう。
海上衝突予防法(昭和五十二年六月一日法律第六十二号)

(見張り) 
第五条  船舶は、周囲の状況及び他の船舶との衝突のおそれについて十分に判断することができるように、視覚、聴覚及びその時の状況に適した他のすべての手段により、常時適切な見張りをしなければならない。 
(安全な速力) 
第六条  船舶は、他の船舶との衝突を避けるための適切かつ有効な動作をとること又はその時の状況に適した距離で停止することができるように、常時安全な速力で航行しなければならない。この場合において、その速力の決定に当たつては、特に次に掲げる事項(レーダーを使用していない船舶にあつては、第一号から第六号までに掲げる事項)を考慮しなければならない。 
 一 ~十二 略

(衝突のおそれ) 
第七条  船舶は、他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを判断するため、その時の状況に適したすべての手段を用いなければならない。 
2  レーダーを使用している船舶は、他の船舶と衝突するおそれがあることを早期に知るための長距離レーダーレンジによる走査、探知した物件のレーダープロッティングその他の系統的な観察等を行うことにより、当該レーダーを適切に用いなければならない。 
 3~5項 略
(衝突を避けるための動作) 
第八条  船舶は、他の船舶との衝突を避けるための動作をとる場合は、できる限り、十分に余裕のある時期に、船舶の運用上の適切な慣行に従つてためらわずにその動作をとらなければならない。 
 2~5項 略 

(行会い船) 
第十四条  二隻の動力船が真向かい又はほとんど真向かいに行き会う場合において衝突するおそれがあるときは、各動力船は、互いに他の動力船の左げん側を通過することができるようにそれぞれ針路を右に転じなければならない。ただし、第九条第三項、第十条第七項又は第十八条第一項若しくは第三項の規定の適用がある場合は、この限りでない。 (シカリ注:第9条第3項などは、漁労中の船に関する規定)
 2・3項 略 
(横切り船) 
第十五条  二隻の動力船が互いに進路を横切る場合において衝突するおそれがあるときは、他の動力船を右げん側に見る動力船は、当該他の動力船の進路を避けなければならない。この場合において、他の動力船の進路を避けなければならない動力船は、やむを得ない場合を除き、当該他の動力船の船首方向を横切つてはならない。 

 それから、次に当時の事故海域の状況はどのようになっていたのか。
 その状況を示すのが、下記の図です。(お借りしました。)
イメージ 1


 法律を素直に読むと、まずは「見張り」をしっかりし、「安全な速力」で航行し、「他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを判断するため、その時の状況に適したすべての手段を用い」なおかつ「他の船舶との衝突を避けるための動作をとる場合は、できる限り、十分に余裕のある時期に、船舶の運用上の適切な慣行に従つてためらわずにその動作」をとる必要がある。
 船の操縦に当たる人にとっては、義務ですね。
 それでも、衝突の恐れがあるときには、「各動力船は、互いに他の動力船の左げん側を通過することができるようにそれぞれ針路を右に転じなければならない」という。
 これまでの報道で、清徳丸は直前に右に舵を切っていたことが明らかになっている。
 一方、「あたご」は、その様な措置をとっていない。石破防衛大臣も回避措置をとる必要があった事を認めている。
 しかし、乗組員は「相手がよけてくれると」思い、そのまま直進したと言うのです。
 じゃあ、「たかじんのなんたら委員会」の人々が言うように、清徳丸が避ければよかったじゃん、という主張については、どうなるのだろうか。
 ワシも、つい納得してしまった主張なのだが、図から判断し、かつ夜間の海上でのことという事を考えると、どうなるのだろうか。
 前後にも、漁船が居てなかなか動きが取れない。前後の船の動きを見てからしか、自船を動かせなかったのではないか。
 ぎりぎりになって(これは結果論だが)、右に舵を切った。もし、これを「たかじんのなんたら委員会」の高名な評論家の皆さんが想像するように回避行動として、左に舵を切った場合どうなるのか。
 法律では、お互い右に舵を切る義務がある。つまり、「あたご」も右に舵を切る義務があるのであって、その通りに舵を切った場合、左に舵を切った清徳丸と「あたご」は、正面衝突することとなる。
 正面にならなくても清徳丸の右舷に「あたご」が突っ込むことになる。

 速度を抑えず、傲慢に直進するイージス艦に、清徳丸は、なす術は無かったのではないか。

 ご家族の皆さんは、地元の漁協に捜索の打ち切りを申し込み、「浦じまい」をおこなったという。今となっては、一日も早く遺体が家族のもとに帰り、安らかに永眠される事を祈るのみである。

 この件については、情報の伝達の遅れ、レーダー情報の隠滅の疑いなど、自衛隊の体質を問われる問題が山積みされている。