2011年11月、東京都新宿区大久保の木造2階建てアパートがほぼ全焼し住人とみられる5人が死亡する火災があった。このうち1人の男性の遺骨が身元不明のまま山梨県の寺に納められている。孤独に暮らす高齢者の増加を背景に、警察が捜しても家族が見つからず、身元が確認できない遺体が増えている。【神保圭作】
「故不詳男性 新宿区11-02018」。その男性の死体火葬許可証には、新宿区が付けた識別番号が記載されているが、名前はない。この書類とともに男性の遺骨を預かっているのは山梨県上野原市にある真福寺。住職の田中禅介さん(65)は「供養に来る人は一人もいない」と言う。
火災は11年11月6日朝、2階建て木造アパートで起き、住人とみられる男性5人が煙を吸うなどして死亡した。当時、アパートには23人が入居。高齢者が多く、生活保護受給者や体の不自由な人もいた。
死亡した5人のうち4人は身元が確認されたが、残る1人の確認は難航した。アパートに入居した時に家主と交わした契約書から「福岡県出身の藤井晃さん(当時74歳)」の可能性が高いことがわかったが、該当する戸籍が見つからなかった。警視庁は「藤井晃」の名前を公表して情報を求めたが、決め手となる情報はなく、家族も現れなかった。遺体は火災の翌月、新宿区が委託する葬儀会社で火葬され、遺骨は真福寺に引き取られた。
この男性は生前、生活保護を受けながらアパートで1人暮らしをしていた。顔見知りの女性(68)は「ときどきお酒を飲む姿を見た。1人暮らしの寂しさを紛らわせていたのでは」と振り返る。体が不自由だったため、2階の自室から逃げ遅れた可能性があるという。
真福寺には、この男性のほか20人を超える身元不明の遺骨が無縁仏として預けられている。田中さんは「人と関わりがないまま死んでいく人が、いかに多いかを感じる」と話す。警視庁は、家族が見つかった時の身元確認に備えて男性のDNA型データを保管。ホームページでの似顔絵の公開も続けている。
最終更新:5月24日(火)13時39分