江戸っ子でぃ

長崎県五島市に住む老人が、政治に関する愚痴などを書いています。

『バイオ燃料神話』を考え直そう

長崎新聞(2月11日付け)に、『やっぱり』と思える記事が載っていた。

  
 バイオ燃料が温暖化を促進

【ワシントン8日共同】トウモロコシなどの穀物からバイオ燃料をつくるために森林や草地を切り開いて畑にすると、温室効果ガスの排出量が数十年から数百年にわたって増えて地球温暖化を促進するとの研究結果を、米国の2つの研究チームが8日までに米科学誌サイエンス(電子版)に発表した。

 二酸化炭素(CO2)の排出削減につながるとして、世界中で温暖化対策の有力な柱に据えられるバイオ燃料だが、米ワシントン・ポスト紙によると、10人の科学者グループがこれらの研究結果をもとに、ブッシュ大統領や議会幹部に政策の見直しを求める書簡を提出した。

 両チームとも、土地の新規開拓で焼き払われる樹木や、耕される土壌から長期間にわたって放出されるCO2を勘案したバイオ燃料と、同量の化石燃料とで、排出されるCO2量を比較した。

 プリンストン大のチームによると、トウモロコシを原料にしたエタノールの場合、30年間はバイオ燃料の方がガソリンより2倍近くのCO2を放出。ガソリンの排出量を上回るのは167年間も続くことが分かった。
 土地を新規開拓せずに生産したエタノールを使えば20%の削減になった。

 また、ミネソタ大などのチームによると、インドネシアの泥炭地の森林をディーゼル燃料向けのアブラヤシ畑にすると423年間、ブラジルの熱帯雨林ディーゼル燃料用の大豆畑にすると319年間、それぞれ化石燃料よりも排出量が多いとの結果が出た。

 これと類する記事が、月刊「科学」(岩波書店)10月号にも掲載された。石弘之・北海道大学教授の『高まるバイオ燃料批判』というもの。

 【参考】バイオ燃料とは
     砂糖キビ、トウモロコシなどを発酵させて作るバイオエタノール
     ナタネ油、パーム油などから作るバイオディーゼルの総称
【石教授論文の概略】

 今年4月、国連は「持続的バイオ燃料―政策決定者のための枠組み」という報告の中で、「貧困国ではバイオ燃料の利用に大きな期待が高まっている。一方、世界的な活動を管理できない限り、森林減少や零細農家の離農を招き、深刻な食糧不足と貧困の増大をもたらすだろう」と警告している。
 この国連の議論のようにバイオ燃料批判は、次の三点に集約できる。
(1)食料と競合して価格の高騰や量的な不足を引き起こさないか
(2)エネルギー作物の作付け拡大で、森林破壊などの環境破壊を招かないか
(3)二酸化炭素の排出抑制につながるのか
 以下、各項目ごとの問題点。


1、食料と競合しないか

【メキシコの例】  トウモロコシから作られる主食のトルティーヤが1年間で15~60%上昇
【インドネシアの例】炒め物、揚げ物の料理に使うパーム油の高騰で生活直撃、今年5月以後2倍に、
          欧州への輸出が伸びている
【日本の例】    トウモロコシ、小麦、砂糖、食用油の価格が上昇、関連して家畜用飼料、
          ケーキ、マーガリンが値上がり

 =国際エネルギー機関(IEA)2004年5月「交通機関へのバイオ燃料」報告書より=
  バイオ燃料の原料を栽培する農地面積の比率は、次のとおり。
    ①欧州でガソリンに5%のエタノールを混合した場合、欧州農地の5%の農地が必要
    ②米国でガソリンに5%のエタノールを混合した場合、米国農地の8%の農地が必要
    ③欧州における5%混合のバイオディーゼルには、欧州農地の15%の農地が必要

 つまり、バイオ燃料の普及には広大な農地が必要である。食料との競合は避けられない。食糧自給率がカロリーベースで39%の日本は、悲惨なことになる。


2、エネルギー作物の増産で、森林破壊などの環境破壊を招かないか

 熱帯雨林が切り開かれ、かえって温暖化ガスの増大に拍車がかかる、とする心配も高まっている。と、前置きして、次のような事例を提示している。
【インドネシアの例】世界第2位のパーム油の生産国
          スマトラカリマンタン島で大規模プランテーション開発
          グリーンピースは、環境負荷が増していると抗議
【ブラジルの例】  約1億5000万haの森林、草原、湿原を農地へ開放  大豆栽培
          大豆油からバイオディーゼル
          開墾のために森林焼却  一時的に膨大な二酸化炭素が大気中に放出される


3、二酸化炭素の排出抑制につながるのか

  <バイオ燃料推進の理屈>
    大気中の二酸化炭素を吸収した植物から作られるので、もともと存在した以上の
    二酸化炭素を発生させることは無い

 バイオ燃料推進の立場を紹介した上で、各場面での問題点を指摘している。
  ①トウモロコシ栽培には、化学肥料を使う上に、農業機械の動力では化石燃料を使う。
  ②エタノール生産の発酵や蒸留には、熱源が必要で大量の化石燃料が使われている
 しかも、栽培・精製に投入される化石燃料は、エタノールとして得られるエネルギー量を上回るという計算がある。楽観的に見ても、差し引き得られるエネルギー量は、投入量よりも10~20%多いぐらいだ。

 さらに、米科学誌「サイエンス」8月7日号に掲載された英国の研究グループの「バイオ燃料は森林を救うか」という論文の中には、「バイオ燃料は、化石燃料の利用を減らすという問題をごまかす手段として使われている」という研究者の指摘がある。結論として、バイオ燃料用作物を作るために森林を伐採することが、環境にとって最悪の選択である、と断定している。
 
 日本のバイオエタノールは、90%以上はブラジルからの輸入に依存することになるだろう。地球を半周して運んでくるための二酸化炭素排出量を考えると、手放しで喜べる量ではなさそうだ。

 つまり、温暖化防止のためのバイオ燃料を得るための森林の無秩序な開発が、実は人類にとっては、最悪の選択であると言う。
 たしかに、そうだろう。
 樹齢数百年の木を切り開いて、わずかなバイオ燃料を手にして、CO2の排出を抑えたとして、もともとの熱帯雨林が吸収しているCO2に比べて、いかにも少なそうなのは、素人感覚でも納得する。

 本来ならば、『CO2を排出するものを使う事を抑える。』ことを追求するべきなのに、『使い続ける』ことを前提にすることを止めようとしない。
 どう考えても、おかしい。
 今年は、日本で環境サミットが開催される。
 ぜひ、子供達の将来を収奪せず、生きる大地・空間を残せるような議論を展開して欲しいものである。


【小麦の国際価格の変動など】
大手町博士のゼミナールより

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