安倍晋三では、トランプ外交に対応できない!
ドナルド・トランプ氏の勝利は「パックス・アメリカーナ」(米国の支配による平和)の終焉(しゅうえん)を意味する。この時代は今後、歴史教科書に「1945年に始まり2016年に終結」と書かれるだろう。世界に指導的な国が存在しない「Gゼロ」の時代の始まりが決定的になった。
次期大統領は、世界に米国の価値観を広めて公共財を提供することや「民主主義の旗手」「世界の警察官」であることに関心がない。外交は単独行動主義で、同盟国との関係はビジネスのような取引となる。米国は軍事力や経済力だけではなく、日本や欧州などと共有する価値観を通じ、重層的に世界秩序を守ってきたが、これが大きく変わる。
不動産取引は最高値をつけた人に売るものだ。価値観を共有する買い手かどうかは問題ではない。(トランプ氏は)米国にとって最も有利な条件を提示する国なら、記者を殺害していようが、独裁だろうが気にしないだろう。シリア問題では、アサド政権排除に関心がないのでプーチン露大統領と取引し、過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いに集中するだろう。
トランプ政権は米国の国益をより狭く定義する。トランプ氏が提唱してきた「米国第一主義」により、同盟国の多くは米国が約束を放棄すると受けとめる。多くの同盟国は米国から離れていくだろう。だが、私は日米関係については欧州より心配していない。欧州が(同盟国に防衛負担増などを求めるトランプ氏の目指す方向とは異なり)防衛費の削減を目指し、米国よりも人権などの価値を重視する一方で、安倍晋三首相は長期的には防衛力を増強しようとし、中国や北朝鮮の脅威を重視しているからだ。
安倍首相がトランプ氏とすぐに会うことにしたのは正しい。米国と一緒にやっていきたいという意思を理解するだろう。トランプ氏も、中国に対抗する重要な同盟国を維持できる。
■人物略歴
1969年生まれ。世界情勢を分析し情報提供するコンサルティング会社「ユーラシア・グループ」の社長。著書に「『Gゼロ』後の世界」
イアン・ブレマー氏
ー 「パックス・アメリカーナ」(米国の支配による平和)の終焉(しゅうえん)を意味する。 -
【リマ時事】トランプ次期米大統領が環太平洋連携協定(TPP)の枠組みからの離脱を宣言する意向を改めて表明した。
米国が抜けるとTPPの経済規模は半分以下に落ち込み、関係者には「事実上の頓挫だ」「存在意義が薄れる」と失望感が広がった。トランプ氏の考えに沿う形で、日本と米国が2国間の自由貿易協定(FTA)を結び直す必要が出てくれば、TPP交渉以上に農産物などの市場開放を求めてくる懸念がある。
トランプ氏が大統領選後初めて離脱に言及したことで、20日に閉幕したアジア太平洋経済協力会議(APEC)議長国を務めたペルーの政府筋は「極めて残念だ」と肩を落とした。ペルーも加わるTPP署名国は19日に首脳会合を開き、各国が早期発効に向けて国内手続きを進める意志を確認したばかりだった。
今後、TPP署名国は、米国を除く11カ国による協定発効や、他の国を加えた新たな協定の構築など、TPPの枠組み見直しを想定した協議を本格化させる。合意内容を事実上修正する「再交渉」も視野に入れることになり、発効は数年先に遠のきそうだ。日本政府関係者は「米国がTPPに戻れる仕組みにすることも一案だ」と語り、トランプ氏の翻意になお期待を寄せる。
トランプ氏は、多国間貿易協定のTPPに代わり、2国間協定に軸足を移すと明言。厳しい要求を相対で突き付けられる「日米FTA」は、日本が最も避けたいシナリオだ。トランプ氏が離脱を撤回し再交渉を行う場合でも、内向き志向が高まる米国内の世論や議会を説得するため、日本が新たな譲歩を迫られる可能性がある。
最終更新:11/22(火) 16:05
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