江戸っ子でぃ

長崎県五島市に住む老人が、政治に関する愚痴などを書いています。

【読物】 『使い捨て家族』その5

「第五話 子供の成長」


翌年、山村家には、またしても大きな喜びが訪れた。

第二子の誕生である。



新しい家に引っ越してちょうど一年目に、長女・小百合が産まれた。

昇にとって、こんな嬉しいことはなかった。なにせ、理想としていた「一男一女」が授かったのだから。


「幸子、ありがとう。」


ベッドで赤ん坊と横たわる幸子の口からは、言葉は出なかった。

ただ、その大きな眼からはポロポロと涙があふれていた。おそらく、家族が4人になったことの嬉しさと、夫への感謝の気持ちで一杯だったのであろう。

一人っ子で育ち、早くに父を失った幸子にとって、家族が増えることはこの上にない幸せに感じるのであった。




昇と幸子にとって、子供達の成長の節目節目の様々なイベントが、なによりの楽しみであった。

共働きの二人は、夕方は、交代で保育園に子供を迎えに行き、夕食の準備をし、夕食を食べさせたり風呂に入れたり、そんな、なんでもない日々の繰り返しが大きな喜びとなっていた。

春には桜の名所を巡り、夏には海水浴に出かけ、秋には運動会に出かけ、冬には高志が小学高学年の頃からは、二年に一度は鳥取の大山にスキーに連れて行くのであった。

二人は、子供と外出する以外は、外食をするでもなく、流行の服を求めるでもなく、ただ、ただ、子供達の将来のために貯蓄にいそしむのであった。

やがて二人は、成長していく子供達に、「大学に行って、大きな会社で働かないとね。」と、自分達の思いを語るのであった。

昇は、自分が高卒であること、そのことで会社では専門的な仕事にタッチ出来ない事を繰り返し教えていた。

だが、中学生までは大人しく話しを聞いていた高志も高校生になると、親の進学の話は疎ましいようで、自然と避けるようになっていた。


「スキーに行くのも、今年で休憩だな。お兄ちゃんが大学に行けないと大変だから。」

「え~、お兄ちゃんは残して、私達だけでも行こうよ。」

「そんなことは出来ないだろう。家族みんなで、お兄ちゃんを応援しないとね。当分は、我慢、我慢。」


小百合は不満げな顔で、兄に質問していた。


「お兄ちゃん、大学って、どこに行くの?長崎大学九州大学?」

「バカ、そんな大学に入れるくらいなら苦労しないよ。」


高志は、吐き捨てるように言うと自分の部屋にこもってしまった。

小百合は、なおも不満そうで昇に愚痴った。


「お兄ちゃんが国立の大学に行けなかったら、学費が大変じゃない。そうなったら、スキーにも行けないんじゃないの?」

「お兄ちゃん頑張るから大丈夫だよ。それより、小百合こそ、高校入試は大丈夫だろうね。」

「まだ、まだ、二年もあるから。今は、部活で忙しいの。三年生の夏から頑張れば大丈夫だって、誰でも言っているよ。」


珍しく、幸子が口を挟んできた。


「小百合、五島高校か五島商業高校にはいれないと、富江と岐宿の高校は通学費がかかるからやれないよ。しっかりなさいよ。」

「は~~い。」


小百合は、お菓子の袋を手に自分の部屋に逃げ込んだ。






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